えっ、脱糞フレスコ画?:トイレ噺(27)

 希有な画題のご紹介。帝都ローマの西部、川向こうの旧アウレリア街道に接したローマ最大の公園Villa Doria Pamphilj付近では古くからいくつも古代ローマ時代の墳墓が発見されていた。残念ながら私はまだ見学したことがないが、事前予約で公開されている納骨堂columbariumには、大・小・それにScribonius Menophilusの三箇所あるようで、特に大納骨堂Colombario MaggioreとScribonius Menophilusのそれはそれぞれ500の遺灰壺を収容するニッチからなっている。いずれも共和政末期から初期アウグストゥス時代の建設で、二世紀半ばまで継続して使用されていた。とくに壁画はパラティヌス丘のアウグストゥスやリウィアの家、テヴェレ川沿いのファルネジーナの邸宅のそれと類似した第2期後半から第3期のスタイル、つまり前30−前10年に日付けられている。現在、国立ローマ博物館(パラッツォ・マッシモ)に展示されているのは大納骨堂のもので、そこはすでに1838年に発見され、第8列目まで保存されていたが略奪を受け、拾い集められた彩色装飾は1922年にローマ国立博物館に引き渡され、2008年に未完成のまま公開された(他方、1984年に再発見されたScribonius Menophilusの納骨堂は、現場保存)。その中に貴重な脱糞の絵が紛れ込んでいたわけである。

発掘中の大納骨堂と南西の壁の書き起こし

 パンフィーリといえば、どうしても丸一年過ごしたナヴォーナ広場を思い出してしまう私ではあるが、今はそれを横に置いといて、件の地下墓室である。当時は火葬だったので遺灰を納める骨壺が壁体のニッチ(ないし小アルコソリウム)下に蓋付きで埋め込まれ、それが幾段か横一列に並び、その下に故人の姓名を記す柄付碑銘板tabulae ansataeも周到に描かれていた。実際、赤や黒の顔料で、なぜか二重に書かれたものもあれば(たぶん転売されたのだろう)、そうかと思えば未だまっさらな空欄のままのものもあって、そこを買えばいいようなものであるが、複雑な所有権問題があったことも想起させる(ここの埋葬の大部分は、特定の家族familiaや同業組合collegiumの兆候が見当たらないため、建売分譲販売だったようだ)。なおcolumbariumとは「鳩小屋」の意なのだが、蜂の巣のようにニッチにフタをしたものもあって、命日には故人の好物のワインなど上から注いで死者との供食行事をしたはずなのだが、フタしてしまったらさてどうなるのだろうか。それにしても、博物館では表面のフレスコ画だけが剥ぎ取られ、いささかきれいすぎるほどの修復を経て展示されているので、本来壁体の中に埋め込まれていた骨壺やその中の遺灰はない、平べったく文字通り抜け殻風の、なんとも浮世離れした弛緩した展示なのである。

博物館内での展示状況

 そしてその上下のニッチ間の、白というより象牙色の空間に色々な風景画,動植物、演劇マスクなどが当時流行の筆致で自由闊達に描かれていて、それが見どころのひとつとなっているのだが、その中の一つにナイル河風景よろしく3人の裸体のピグミーの船遊びがある。彼らは例のごとく戯画的に各々大小の男根を露出し、それぞれ竿で一艘の葦舟と思しき船を操っているが、船尾の一人が、大口を開けて迫ってきたカバに向かって撃退すべく、尻を突き出して若干水っぽそうな糞をひっかけているのだが、これがなんと古代ローマ時代に描かれて現在のところ唯一残存の、よってたいへん貴重な脱糞図なのだそうなので、皆様、心して拝観してくださいませ。

フレスコ画の上の段に柄付碑銘板tabulae ansataeが見えるだけでなく、埋葬者の重複記載の跡あり

【参考文献】

 Thomas Froehlich & Silke Haps, Architektur und Dekoration der Columbarien an der Villa Doria Pamphilj, XVIII CIAC:Centra y periferia en el mundo clasico, Merida, 2014, pp.1187-1192(=https://www.academia.edu/18451855/Architektur_und_Dekoration_der_Columbarien_an_der_Villa_Doria_Pamphilj_Rom).

 Dorian Borbonus, Columbarium Tombs and Collective Identity in Augustan Rome, Cambridge UP, 2004.

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