早いものでもう20年以上も前になってしまったが、イタリアに一年間滞在すると短期の旅行とはひと味ちがった思い出を持つことができる。
そのひとつが季節のたべもので、9月下旬だとフンギ・ポルチーニである。当時は大げさではなく直径20cm級のソテーが、一万2千リラだっけで食せて、大感激だった。最近は小ぶりになって最初の感激を思い出すこともできない。ま、香り的には日本の松茸といったところで、食感の歯ごたえがよくて、あれっと何かを思い出したりもする人もいる、ようで (^_^; これも土産用の乾燥品があるが、あれはまあ代用品もいいところで、生食には遠く及ばない。香りも付けているらしいし。
実は秋の味覚にもうひとつ、タルトゥーフォ(トリュフ)があるのだが、私のような新参者にはそのかんばせはよくは分からないので、パス。
今年ぼんやりとしていて(はい、惚け老人です)、すんでのことで時期を逸するところだったが、昨晩「鶴甁の家族に乾杯」だっけの総集編見ていて、危うく思い出した、通称ブラッド・オレンジ。今日慌ててウェブで注文した。ふぞろいの家庭用5kg、送料込みで¥5600。愛媛から届く。
これは現地イタリアでも3月からせいぜい5月までのもので、シシリー原産。私は吸血鬼ではないのでブラッドという名称は嫌いで、タロッコと呼んでいる(もっと色の濃い品種はモロというらしいが、日本ではみかけない)。初めて生食した時の感激は忘れられない。当時、普通のオレンジ・ジュース(ズッコ・ダランチャ)も美味しかったが(バールで、冷やしもしていないオレンジを、3コくらい半分に切ってぎゅっと絞って、夏でも氷を入れずに、出てきていた)、タロッコは独特の甘さがクセになります。私だったら、冷蔵庫に入れて年中出すようにするのだけどなあ、と思ったことだ。還元ジュースはあるけど、あれはぜんぜんまがい物。生の面影などまったくない。
そうそう、思い出した。二度目のローマ長期滞在中に日本から研究仲間では名の知れた先輩の古代ローマ史研究者が来られたので(但し,イギリス滞在経験者)、我らがコンドミニオに泊まってもらい、珍しいだろうと思って「シシリア産のオレンジです」と言って1つ差し上げた。翌朝「どうでしたか」と聞いたら、答えはなんと「腐っていたので捨てました」と。場合によっては一面にではなく普通のオレンジに部分的に赤紫がはいっているから腐っていると思ったらしい。不意を突かれ毒気も抜かれて、私は何も言えなかった。絶句であった。
研究者は机の上で文字ばかり扱っているから、外国の現地の庶民の実生活には疎くても全然平気だ。そんなこと気づきもしない(ちなみに、私は大学院入試での第二外国語のドイツ語で、日常品とかの単語が分からず苦戦した)。それで天下国家を論じている気になるのはなんだか滑稽なことで、こりゃ自戒せねばと思ったことだ。私が坂本先生のエッセイ好きなのは、庶民目線でイタリアを論じているからである。
【追記】4/25に届いた。実際にはこんな調子の色め。