読書会での準備でまとめた成果を公表する。もうひとつ、アエネイアス関係画像も面白かったので、生きていたらいずれ。
私はポンペイの「郊外浴場」(VII.16a)にこれまで三回以上は立ち入っている。最初、考古管理事務所の許可を得たのが一回、あとはなぜか行ってみたら自由に入れて(2016年11月23日から一般見学が可能になったからだが、そんな情報事前に得られてなかったので:そして例のごとくイタリアなので、所長が替わったこともあり、現在も公開されているかどうかは不明)、あるときなどは先生に引率されたイタリア人男女高校生のご一行様と一緒のことあって、彼らが大騒ぎしているのを見聞したので、あっち方面には限りなく開放されていると思われる彼らにとっても、かなり面白い見学だったようだ。
Room d:脱衣場 apodyterium の入口から見た右壁:この部屋は奥行きのある長方形であるが、件の壁画は奥まったほうにのみ描かれている。手前半分以上の壁の現況には、上部に茶色の枠組みと花綱模様めいた図案が描かれ、下部は黒色に塗られている。
下図は、部屋の奥の3面の写真
フレスコ画がほぼ完全に残っているのは右壁だけで、しかもそれを子細に眺めてみると最初の絵の上に格子模様を重ね描きしたような痕跡もあるし、発掘時にはその上にさらに塗りつぶしの重ね塗りがされていたらしい。
その右壁の奥の問題の絵画の全景が以下。全体の描き方の流れとして左下から右上となっていて、手前に衣服を入れる脱衣籠が縦長に、ローマ数字でIからVIIIまで番号が振られ、その奧にベッド上での男女の性的体位が描かれている。黒色の縦・横の区切り線等は後からの重ね描きと思われる。
以下、詳細に見る。最初にNo.IとNo.II:以下、画像は番号順に右から左に見ていく。
次にNo.IIIとNo.IV:
次は問題の箇所、No.VとNo.VI:
No. Vの部分拡大図
次も問題の、No.VIIとNo.VIII:
さて、No.VIIIはというと、これがいささか場違いな画題なのだが・・・:
ベッドに座り、冊子本を開いて見物人の方に示している若者のように見えるが(文字で格言が書かれていたかも知れない)、より問題なのは彼の股間で、ささやかな男根と大きくふくらんだ睾丸が描かれている。睾丸水腫か、脱腸(鼠径ヘルニア)のように思えるのだが、一説に、彼は知性を象徴してる人物で、だから本を示し、男根もそれを象徴して理性的という意味で小さい包茎で示されている、と解釈されてもいるが、さてさて。
以上が右壁で、次に、奥の壁の脱衣籠図の下部が(上部に描かれていたはずの体位図は消失)、ローマ数字でX-XVI と、7つ描かれている。但し、描き方の方向が左上から右下となっていて、右壁とは違うのは若干私には違和感ある。
おそらくこの調子だと、すべて消失してしまった左壁にも右壁同様に8つの衣類籠が描かれていたのかもしれないが、いずれにせよ、失われてしまった空間にどんな性的体位図が描かれていたことやら。日本ではその類いの体位48手と称しているようだが(その場合、男女は一対一であろうが)、ここで合計23手が描かれていたとすると、かなり壮観だったと思われる。
しかし、最終的にすべて塗り込まれていたり、それ以前にも黒い太線で何ごとか描き直されている様子から察するに、この画題が利用者すべてから賛同を得ていたようには思えない節が感じられもする。部屋手前部分の茶色の格子模様との関連性の可能性にも気付かざるをえない。
【付録】さて、最初に示した平面図をご覧いただくと、この脱衣場「d」の外の壁沿いの右通路に沿って逆「く」の字型に階段が描かれている。そこを登ると崖を利用した二階に通じるのだが(崖の斜面を利用しているので、二階だからといってその下に一階があるわけではない)、そこがこの「郊外浴場」付設の売春宿だった(それがnと水色に塗られたo)。私はトイレつながりで許可を得て二階を訪問したことがある。そこは平面図で「n」の三角空間で、入口から入って左の壁に、例のトイレの神様のフォルトゥーナ女神が描かれていた。
【2021/5/15のブログ参照】
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