帰国以来、10月に入ってカルチャがらみで多忙だったが、昨日でようやく一段落ついた。とはいえ、来週月曜の準備をこれからしなけりゃならないが。そうそう、ローマでの盗難騒ぎの後始末も、一昨日のシルバーパス再発行、昨日の銀行訪問で新しいカードが送付されることになり、こっちも一段落だ(旅行傷害保険への申請は大した物損でないのでやってない)。それにしても以来軌を一にして詐欺メールがおびただしく送られて来ていて(銀行や信販のカード情報の漏洩可能性大のうえに、3億円とか10万円あげますなどという荒唐無稽なメールまでやたら送られてきて:昨日の報道だと私も購入している山田養蜂場関係40万件の個人情報漏洩があったとか)迷惑この上もないが、こっちも早く沈静化してほしいものだ。
ということでこうしているうちに新情報が旧情報となってしまうわけではあるが、最近気になっている考古ニュースを点描しておく。
●海賊船のトイレ Toilets on a Piratw Ship and the Sorry Guy Who Cleaned them… UPDATED 14 OCTOBER, 2023 ROBBIE MITCHELL
https://www.ancient-origins.net/sites/default/files/field/image/Pirate-Hygiene-Toilets.jpg
これは文字情報よりもビデオの方が情報が多い。トイレはなぜか船首にあって、どうやら綱で尻を拭いていたらしい。これは近世の事例であるが、古代においても状況はたぶん大差なかっただろう。
https://www.youtube.com/watch?v=RXda4b_Mjws&t=699s
●エルコラーノの「パピルス荘」出土の巻物の非破壊解読
Herculaneum Scrolls Reveal New Secrets:College student becomes first to unlock the Herculaneum scrolls Nathan Steinmeyer October 16, 2023
http://reply.biblicalarchaeology.org/dm?id=3798E468A211602F65DBD90F51686711D06065C183EB779C
ネブラスカ大学の21歳のコンピューターサイエンス専攻の学部生 Luke Farritorはこれまで破壊することなくほとんど読むことのできなかった炭化した巻物を読む突破口を切り拓いたのかもしれない。
彼は、人工知能(AI)プログラムに、ヘルクラネウムの巻物の3Dスキャンに含まれるかすかな「ひび割れ」を識別させるトレーニングを行ったところ、ファリターは巻物の0.6インチ四方の領域から10文字を検出することに成功した。この偉業により、ファリターは40,000ドル相当のファースト・レターズ賞を受賞した。ファリターの10文字には、いくつかの単独の文字と、”紫 “を意味するporphyrasという1つの単語が含まれていた。
これまでは巻物を破壊して読んできていて、解読されたテキストの多くは、それまで知られていなかったフィロデモスPhilodemosという前1世紀のエピクロス派の者の書籍だったことが判明した。今後の研究の進展が期待される。それにしても、研究に賞金が出ているなんてことは知らなかった。
●ポンペイで、邸宅内で選挙広告がみつかる 2023/10/3
http://www.thehistoryblog.com/archives/68418
ポンペイの通りや外壁には1500以上の選挙広告やスローガンが書かれている。今般、IX.10.1の製粉兼製パン業者の遺跡発掘から興味深い出土があった(隣りの2は縮絨工房の由)。
そこはポンペイの一番北を東西に走るノラ大通りに面していて、今年のつい数ヶ月前に発掘されたのだが、なんと邸宅内の家の守り神を祀った祭壇 lararium付近から選挙広告の文字断片がでてきたのである。この普通ではない状況を勘案して、おそらくその家が候補者の親戚か、庇護民か友人の邸宅で、選挙運動がらみの宴会がそこで行われたその残り香がその選挙広告だったのだろうと、研究者によって想像されている。ただその文字全体の確定はいまだきちんとなされていないようなので(一説には「「Aulus Rustiusを国家にふさわしい真のaedileにしてくださるようお願いします」と読めるらしい)、今は造営官aedilisに立候補していた人物名が他からもその存在が確認されるAulus Rustius Verusだったこと以上にここで触れないでおく(彼は、のち二人官duovir候補者として後73年に、それもネロがらみで前回触れたIX.13.1-3のあのC.Iulius Polibiusとペアで登場していた。よって造営官候補だったのは後73年以前ということになるし、おそらく二人官に立候補していることから、このとき造営官に選出されたのだろう)。下記写真にしても、どの場所に文字が書かれているのか、部分拡大写真はあるものの、そもそも私には未確認であることを付言しておく(下の右写真の左端中央隅のアーチがもしオーブンであるとすると、オーブンは平面図の7a、となると祭壇は4の西壁にあって、よって写真は左右を合成したものなのか)。
左平面図:左1番地が製粉・製パン所、右2番地が縮絨工房 右写真:ララリウムの周辺壁面? あるいは合成写真?
その他に2つの注目すべき出土が確認された。そのひとつは「ARV」と刻まれた石臼が出土したことで、こうなるとこの製粉・パン製造所は「Aulus Rustius Verus」の援助を得ていたということになって、当時の選挙活動の実態があからさまに見てとれると発掘者たちは指摘している(しかしたとえば、彼の投資設備を使って営業していた解放自由人だったとか、Verusは石臼製造業者だった、といった別の至極穏当な解釈もありそうだが、こういうマスコミ受けしそうな穿った解釈はポンペイ関係でよく見受けられる)。普通の写真では刻印部分が不分明なので文字部分をなぞったものを掲載しておく。
もう一つは、ララリウムの祭壇からかつての献げ物の遺物が収集できたことで、分析によると、噴火前の最後の献げ物はナツメヤシとイチジクで、オリーブの実と松ぼっくりを燃料として祭壇で燃やしていたことが判明した。ある報告者が乾燥オリーブの実を暖炉で燃やしたことがあるのだそうだが、素晴らしい香りがしたらしい。そして、燃やした供え物の上にはひとつの卵を丸ごとのせ、祭壇を一枚のタイルで上から覆って儀式を終えていたらしい。なお祭壇の周りからは以前の献げ物の残骸も出てきて、ブドウの果実、魚、哺乳類の肉などが確認されたという。こうして文献史料からつい想像され勝ちなのだが、いつも高価な動物犠牲を奉献していたわけではない庶民層の日常的宗教慣習の具体例をおそらく初めて垣間見ることもできたわけである。
上の写真左が発掘途中で祭壇上部が露出したとき、右が発掘完了時の姿を示している
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