2023/5/20にNHK BSプレミアムで放映されたものの再放送を、2024/1/7にみた。フランス製作のものだったが(このところNHKのこの手の編集者はもっぱらフランス製作のものを使っている印象がある:製作費削減のせいか)、これまで見た記憶がうかつにも私にはなかったものだ。私からすると時々おかしなことを言っていたのだが、最新の考古学的調査の成果公表としては意味あると考える。間違ってはいけないのは、それでもわかってきたことはほんの一部にすぎないということだ。要するに、研究レベルでは本当のことは何もわかっていないのに、これまでいい加減な仮説を思い込まされていたという認識をこそ持つべきなのだ。
たとえば、コロッセオの地下からアレーナへの昇降システム、我が国の歌舞伎で言う「奈落」は船への荷の積み下ろしから学んでの仕組みであるとしていたが、これは話が逆のように思えるし、その再現映像も幾つか言いたいことがある。
第一に、船が波止場に横付けに表現されていること、さらに波止場から海に突き出ている上向きの装置の解釈として船舶係留装置を採用してロープを巻き付ける丸太をそこに入れ込んでいるようだが、荷の上げ下ろしのクレーンがらみかもしれないという件は、最近の拙稿「ポンペイ遺跡の謎を探る:(1)船舶係留装置考」(『西洋史学』50、2023、pp.193-211)で触れていて、しかしそこではわざと図示しなかったのだが、時に奴隷を動力源とする人力クレーンとの組み合わせとして描かれる場合があるが(下図の下の方参照)、文書史料や絵画資料に指摘・描かれているわけではないので、簡単に是認するわけにはいかないのである。
私的には、海水がローマ・コンクリートをより強固にしていたというメカニズムの説明(真水と違い海水だとアルミナ・トバモライトという物質が成長して水の浸入を防いで強度が増す)は面白かった(この件はしかし、放映中のイタリア人の発見というよりも、すでに5年以上前にアメリカの研究チームが指摘していたのだが:https://wired.jp/2017/07/30/roman-concrete/)。そしてポッツォラーナでコンクリートを作る場合、海水を使用していたのではというのは面白い仮説だと思う。
またたとえば、私のテーマであるコロッセオのトイレについては何も触れてくれていなかった。あの場で見世物をみながら持ちこんだ弁当なんか食べていた、とは言っていたが、排泄のほうには気付きもしないわけだ。ついでにいうと、コロッセオで殺された動物をその場で食べていたかのような誤解を生じさせかねない説明をしていたのは(おそらく翻訳レベルの誤訳)、いささか問題ありだろう。
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