米大統領とバチカン・正しい告解とは

https://wien2006.livedoor.blog/archives/52402038.html

 このブログは西欧の動向を伝えていて意味深いので、今回は2つ全文引用する。

2024年11月13日

トランプ氏再選とバチカンのジレンマ

 米大統領選の結果を宗教的側面から見ていく前に、ハリス副大統領とトランプ前大統領の宗教的背景についてまとめておく。

 ハリス副大統領(60)は異なる宗教的ルーツを持つ家庭で育った。母親はインド系ヒンドゥー教徒、父親はジャマイカ系のキリスト教徒だ。そのため、ハリス副大統領は幼少期にヒンドゥー教とキリスト教の両方の影響を受けながら育った。ハリスさん自身は、キリスト教のプロテスタントに属しており、バプテスト教会に参加している。彼女は特定の教派に深くコミットすることはない。

 一方、トランプ氏(78)はプロテスタントの長老派教会(Presbyterian Church)で育った。彼は子供の頃から長老派教会で礼拝に参加していた。トランプ氏は現在 特定の教会に通っているわけではないが、近年では福音派(エバンジェリカル)信者の支持を集めており、選挙期間中には彼らとの関わりが深まったといわれる。参考までに、バイデン大統領はカトリック信者だ(「バイデン米新大統領の『信仰の世界』」2021年1月21日参考)。

 それでは5日の大統領選挙の結果をどうだろうか。FOXニュースとAP通信の調査によれば、トランプ氏はカトリック教徒の54%、プロテスタントなどのクリスチャン全体の60%の票を得た。これは2020年時のカトリック教徒支持をわずかに上回り、トランプのキリスト教徒支持層での強さを示している。反対に、ユダヤ教徒やイスラム教徒の有権者は大多数がハリスを支持した。

 ところで、カトリック教会は今回、信者にどちらの候補者に投票を、といった呼び掛けをしていない。なぜならば、司教会議内でも政治へのスタンスには温度差があったからだ。民主党のハリス氏は「中絶の権利」を推進し、トランプ氏の共和党は移民に厳しい政策をとっていたため、カトリック教徒にとってはどちらも受け入れ難いからだ。例えば、ワシントンDCのウィルトン・グレゴリー枢機卿は、「命の保護が基本的なテーマだ」と述べ、ニューヨークのティモシー・ドラン枢機卿は「いずれの候補者もカトリックの生命尊重文化を完全に具現化できていない」と指摘。司教会議のブロリオ大司教は、「盲目的な国家主義によって歪められた愛国心」を警戒するよう呼びかけた、といった具合だ。フランシスコ教皇は、米国のカトリック教徒には自身の良心に従うよう促しただけだ。

 宗教的な有権者にとって中絶問題は主要なテーマだ。ハリス氏は「生殖の自由」を全面的に支持する一方、トランプ氏は中絶の規制を各州に任せる意向を示した。これは、2022年に連邦最高裁が「中絶の権利は憲法上保障されていない」と判決を下したことに起因する。ワシントン・ポストの調査によると、トランプ氏は中絶規制に反対する有権者の28%、厳格な中絶反対派の90%から支持を集めた。

 選挙直後、米国司教会議は公式な反応を示していない。なぜならば、司教たちは今回の選挙で全体的に政治から距離を置いていたからだ。ヴィラノヴァ大学の神学者マッシモ・ファッジオーリ氏によれば、「カトリックの有権者が大きく分かれている」ため、司教たちは過度に政治的な姿勢を取らないように努めたからだと受け取っている。激動州(スイングステート)では、世論調査によるとカトリック教徒の50%がトランプ氏を、45%がハリス氏を支持している。

 バチカンニュースはバチカンの国務長官であるパロリン枢機卿の見解を大きく紹介している。パロリン枢機卿は7日、トランプ氏が新しい米国大統領に選ばれたことに対し、「米国内の深い分裂を克服し、全ての国民の大統領になってほしい」と要望している。そのためには「知恵」が統治者の最高の徳だと聖書から引用をしている。ウクライナ戦争や中東戦争などの国際紛争については「緊張緩和と平和構築」に貢献する役割を果たしてほしいと述べる一方、トランプ氏の移民政策にも言及し、トランプ氏が表明した中南米からの移民の大量追放計画に懸念を表明している。

 興味深い点は、トランプ氏が中国共産党政権には批判的な立場を取ってきていることを意識したのか、バチカンが中国との対話を優先した融和的な政策を実施していることに触れ、「バチカンの対話はあくまで教会の性格を持つものであり、政治的な相違を超えたものである」と明言し、バチカンはこの方針を維持し、中国との長期的な関係構築に取り組むために、対話を継続していく意向を強調していることだ。

 ちなみに、ローマ・カトリック教会の総本山バチカンと中国共産党政権は先月22日、両国間の司教任命権に関する暫定合意を4年間延長すると発表したばかりだ。欧米諸国では中国の人権蹂躙、民主運動の弾圧などを挙げ、中国批判が高まっている時だけに、バチカンの中国共産党政権への対応の甘さを指摘する声が絶えない(「『教皇の現実主義』は中国では通用しない」2024年10月24日参考)。

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https://wien2006.livedoor.blog/archives/52402083.html
2024年11月14日

仏教会の「安全な告解」新ガイドライン

 まず、3年前のショッキングなニュースを思い出して頂きたい。欧州最大のカトリック教国、フランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになった。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るというのだ。バチカン教皇庁もその聖職者の性犯罪件数の多さに驚いたといわれている。

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▲CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(CIASE公式サイトから)

 バチカンニュース(独語版)は2021年10月5日、仏教会の聖職者の性犯罪報告書の内容をトップで大きく報道した。「フランス、聖職者の性犯罪に関する新しい報告書の恐るべき数字」という見出しだ。公表された報告書は独立調査委員会(CIASE)が2019年2月から2年半余りの調査結果をまとめたもので、約2500頁に及ぶ。犠牲者の80%は10歳から13歳までの少年であり、20%は異なる年齢層の少女だ。ほぼ3分の1はレイプだった。

 日々の喧噪の中、フランス教会の不祥事を忘れかかかっていた時、同国カトリック教会司教会議は10日、告解と霊的指導に関する新ガイドラインを制定し、聖職者の性的暴力を防止するための追加措置を決めた、というニュースが入ってきた。これはルルドで開催されてきた司教会議総会で決められたもので、3年前のCIASEの勧告に基づいたものだ。同時に、司教たちは虐待被害者を支援するための基金に追加資金を提供することも発表した。

 ローマ・カトリック教会の「告解の守秘義務(Seal of Confession)」は、信者が神父に告白した内容を秘密にする義務であり、13世紀初頭、第4ラテラン公会議(1215年)で正式に施行された。1983年に改訂された現行の教会法典(カノン法)でも、告解における守秘義務が明記されており、神父がこれを破ることは聖職剥奪の対象となる。カノン法第983条で「告白された内容を神父が漏らしてはならない」と定められており、第1388条では、守秘義務を意図的に破ることがあれば自動的破門の対象となると規定されている。一方、カトリック教会の信者たちは洗礼後、神の教えに反して罪を犯した場合、それを聴罪担当の神父の前に告白することで許しを得る。

 ちなみに、カトリック教会では、告解の内容を命懸けで守ったネポムクの聖ヨハネ神父の話は有名だ。同神父は1393年、王妃の告解内容を明らかにするのを拒否したため、ボヘミア王ヴァーソラフ4世によってカレル橋から落され、溺死した。それほど聖職者にとって「信者の告解」の遵守は厳格な教えなのだ。

 今回の告解に関するガイドラインでは、赦しの秘跡を授ける際の条件が定められている。告解の際は、聖職者の個人的な部屋で行うことはできない。教会、告解室、特別に用意された告解室以外の場所での告解は、巡礼や病者の場合などの例外を除き禁止される。告解は基本的に昼間に行う必要があり、神父はその際に聖職者の衣服、少なくともストラ(聖職者の帯状の衣服)を着用しなければならない。特に感情が高ぶった状況での告解は避けるべきだ、といった具合だ。

 また、新ガイドラインでは、告解神父の教育に特に重点を置いている。告解の許可を与える前に、司教は神父を適切に訓練し、告解の務めに適しているかどうかを確認しなければならない。神父証明書には、告解を聞く許可があるかどうかが記される。許可が与えられた後も、神学的、心理的、法的側面に関する定期的な研修が必要とされる。

 同時に、告解の秘密の重要性について強調されている。この秘密は絶対的であり、破ることには厳しい教会法上の罰が科される。神父が告解の中で犯罪の疑いを知った場合、自ら通報したり他者に明らかにしたりすることはできない。しかし、告解者に自ら行動を起こすよう促し、必要に応じて教会や民間の当局に通報することを償いの一環として指導することはできる。赦しを拒否することは認められていない。

 ところで、なぜ司教会議はここにきて「告解に関する新しいガイドライン」を制定したのだろうか。それは聖職者の「告解守秘義務」が未成年者への性的虐待問題で大きなハードルとなってきたからだ。告解神父が聖職者の性犯罪を告解を通じて知ったとしてもそれを公にすることが出来ない。それが教会の性犯罪の隠蔽に繋がってきたからだ。CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(元裁判官)は報告書の中で教会の「告白の守秘義務」の緩和を提唱している。なぜなら、守秘義務が真相究明の障害となるからだ。

 なお エリック・ド・ムーラン=ビューフォート大司教は2021年10月6日、ツイッターで、「教会の告白の守秘義務はフランス共和国の法よりも上位に位置する」と述べた。その内容が報じられると、聖職者の性犯罪の犠牲者ばかりか、各方面の有識者からもブーイングが起きた(「聖職者の性犯罪と『告白と守秘義務』」2021年10月18日参考)。

 ローマ・カトリック教会は今日まで「告解の守秘義務」を教会の重要な信条と位置づけ、神父が告解内容を漏らすことは許されないという厳格な姿勢を取り続けているが、児童虐待や重大犯罪が絡むケースにおいて、「告解の守秘義務」と社会的な義務との間で緊張が生じている。その意味で、フランス教会の今回の決定は、告解担当の聖職者への助言という性格が強いが、聖職者の性犯罪を久しく隠蔽してきた教会側がアンタッチャブルな「告解の守秘義務」に対して自ら再考する姿勢を示したものとして評価される。

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