トイレの神様?:Crepitus

 ひと昔前、「トイレの神様」という歌があった(2011年 植村花菜作詞作曲;歌詞:https://www.uta-net.com/song/89774/;動画:https://www.youtube.com/watch?v=Z2VoEN1iooE)。なんでも最初からこの歌手って一発屋だろうというもっぱらの噂だったが、本当にそれっきりだった。しかも、今回全曲を聴いて実は死んだ祖母へのレクイエムだったのだということを知った。

 おっと、ここでは歌の話ではない。古代ローマ時代に、「トイレの神様」がいたらしい。こっちである。Crepitusという名前だそうだ。ポーランド人Jakub Jasinskiのブログ「IMPERIUM ROMANUM」(https://www.quora.com/q/imperiumromanum:2024/11/19)から知った。こういう情報ってウェブ以外では気がつかないし入手困難な気がする。でもウィキペディアにはCrepitus (mythology)の項目で登場していた。

 ただそれによると、古代ローマ文献や考古学的裏付けがなく、初期キリスト教文書に登場しているので、4世紀のキリスト教が多神教的な古代諸宗教を嘲笑するためでっち上げた「おならとトイレの神さま」、ということになっているようだ。むしろ周縁的なマイナーな庶民の口頭レベルの神さんだったのかもしれない。語源的には、「放屁」や「便秘」にかかわるとかく物議をかもす音がらみから発生した神なので、そういった位置取りがいかにもふさわしいように思えるのだが。

 最古の言及は、偽クレメンス『諸認識』Pseudo Clemens, Recognitiones, V.xx らしい:

エジプトの偶像崇拝。「この神という言葉は神の名前ではないが、人間はそれを神の名として使っている。したがって、私が言ったように、非難の意味で使われる場合、非難は真の名を傷つけることを指す。要するに、天の公転と星の性質の理論を発見したと思っていた古代エジプト人は、悪魔が彼らの感覚をブロックしたため、伝達不可能な名前をあらゆる種類の侮辱にさらした。ある者は、アピスと呼ばれる彼らの牛を崇拝すべきだと教え、別の者は雄ヤギを、また別の者たちは猫、トキ、魚、蛇、タマネギ、排水溝、腹の捻れ音crepitus ventrisを諸神格と見なすべきだと教え alii … crepitus ventris pro numinibus habendos esse docuerunt.、そのほか数え切れないほど多くのものを、私が言及することさえ恥ずかしいほど教えた。」

 ウィキペディア情報によると(https://en.wikipedia.org/wiki/Crepitus_(mythology))、上記情報はアクイレイアのルフィヌス(なんと、エウセビオス『教会史』のラテン語翻訳者!)によるギリシア語からの翻訳でのみ残っていて、さらに「古代の異教徒が崇拝するさまざまなマイナーな神々に対する風刺という西方キリスト教の伝統の中にある。同様の文章は、ヒッポの聖アウグスティヌスの『神の国』やテルトゥリアヌスの『諸々の異教徒に向けて』Ad Nationesにも存在する」となっているが、最後の2名は、註記の箇所を繙いてみても、直接この放屁の神に言及しているわけではないのが物足らない。

Tertullianus, Ad Nationes, II.11:第 11 章 ローマ人は誕生、いや誕生前から死に至るまで神々を用意していた。このシステムには多くの無作法がある。
そしてあなた方は、かつてあなた方が知っていた、あなた方が聞いて触った、あなた方の間で肖像画が描かれ、行動が語られ、記憶が保持されているものの神性を主張するだけでは満足しない。しかし人々は、私が知らない無形の無生物の影や単なる物の名前を天の命で奉献することに固執し、子宮内での受胎から人間の全存在を別々の力に分割している。そのため、妾の生殖を司るコンセビウス神と、子宮内の幼児の (成長) を維持するフルビオナ神がいる。これらの後には、赤ん坊が生命とその最初の感覚を持ち始めるウィトゥムヌスとセンティヌスが続き、その役目によって子供は誕生を成し遂げる。しかし、女性が出産を始めると、出産にはろうそくの明かりが必要なので、カンデリフェラも助けにやって来ます。また、陣痛の段階で産む部分から名前をもらった女神もいます。一般的な見解によれば、同様に 2 人のカルメンタがいました。そのうちの 1 人はポストヴェルタと呼ばれ、内向的な子供の出産を助ける機能を持っていました。もう 1 人のプロサは、正しく生まれた子供のために同様の役割を果たしました。ファリヌス神は (彼が霊感を与えた) 最初の発言からそのように呼ばれ、他の人はロクティウスをその言葉の才能から信じていました。クニナは子供の深い眠りの守護者として存在し、子供にさわやかな休息を与えます。倒れた子供を起こすためにレヴァナがおり、彼女と一緒にルミナがいます。子供の汚れを掃除するために神が任命されなかったのは素晴らしい見落としです。そして、彼らの最初のおしゃべりと最初の飲み物を取り仕切るためにポティナとエデュラがいます。子どもに直立することを教えるのはスタティナの仕事であり、アデオナは子どもが愛するママのもとに来るのを助け、アベオナは再びよちよち歩きで出発するのを手伝う。それからドミドゥカ(花嫁を家に連れ帰る)と、心を善にも悪にも左右する女神メンズがいる。同様に、意志を制御するヴォルムヌスとヴォレタ、恐怖の女神パヴェンティナ、希望の女神ヴェニリア、快楽の女神ヴォルピア、美の女神プレスティティアがいる。それからまた、ペラゲノールは、男たちに仕事のやり方を教えることから、コンススはその名を冠している。ユヴェンタは、男らしいガウンを着るガイドであり、ひげを生やしたフォーチュンは、成人したときに運命づけられる。結婚の義務について触れなければならないとすれば、アフェレンダがいて、その定められた役割は持参金の提供を見届けることであるが、くそったれだ! ムトゥヌス、トゥトゥヌス、ペルトゥンダ、スビグス、女神プレマ、そしてペルフィカもいる。ああ、厚かましい神々よ、自分を甘やかしてくれ! 結婚生活の秘密の闘いに誰も立ち会わないでくれ。そのように願うごく少数の人々は、喜びの真っ只中に恥ずかしさで顔を赤らめて立ち去るのだ。

Augustinus, De civitate Dei, IV.34:第 34 章  唯一の真の神によって創設され、彼らが真の宗教に留まる限り神によって保持されたユダヤ人の王国について
したがって、より良いものを想像できない人々が渇望するこれらの地上の善良なものは、ローマ人がかつて崇拝に値すると信じていた多くの偽りの神々ではなく、唯一の神自身の力の中に留まることが知られるように、神はエジプトで彼の民(ヘブライ人)を非常に少数から増やし、素晴らしい兆候によって彼らをそこから救い出した。彼らの子孫が信じられないほど増えたとき、彼らの女性たちはルキナに祈ることもしなかった。そしてその国が信じられないほど増えたとき、神自身が彼らを救い、彼らを迫害し、彼らのすべての幼児を殺そうとしたエジプト人の手から彼ら自身を救った。彼らはルミナ女神なしで乳を飲み、クニナなしで揺りかごに入れられ、エドゥカとポティナなしで食べ物と飲み物を取り、それらすべての幼稚な神々なしで彼らは教育された。彼らは結婚の神々なしで結婚した。プリアポスの崇拝なしで夫婦関係を持った。ネプチューンの祈りなしでも、分かれた海は彼らが渡る道を開き、追いかけてきた敵をその波で圧倒した。彼らは天からマナを受け取ったとき、女神マンニアを奉献しなかった。また、喉が渇いたときに打たれた岩が水を注いでくれたとき、ニンフやリンパを崇拝しなかった。彼らはマルスとベローナの狂気の儀式なしで戦争を続けた。そして、確かに彼らは勝利なしに征服することはなかったが、それを女神ではなく神からの贈り物とみなした。セゲティアなしで収穫があり、ブボナなしで雄牛があり、メロナなしで蜂蜜があり、ポモナなしでリンゴがあった。つまり、ローマ人が偽りの神々の非常に多くの群衆に懇願しなければならないと考えていたすべてのものを、彼らは唯一の真の神からはるかに幸せに受け取ったのである。そして、もし彼らが不敬虔な好奇心で神に対して罪を犯さなかったなら、その好奇心は彼らを魔術のように誘惑し、異国の神々や偶像に引き寄せ、ついにはキリストを殺すに至らせたが、彼らの王国は彼らのものとなり、ローマの王国よりも広大ではなかったとしても、より幸福なものであったであろう。そして今や彼らはほとんどすべての国や国々に散らばっているが、それは唯一の真の神の摂理によるものであり、偽りの神々の像、祭壇、森、神殿が至る所で倒され、彼らの犠牲が禁止されているのに対し、彼らの書物から、これはずっと以前に彼らの預言者によって予言されていたことがわかる。おそらく、彼らの書物が私たちの書物で読まれたとき、私たちの創作物と思われないようにするためである。しかし今は、次に続くことは次の書物のために残しておくとして、ここではこの書物の冗長さに限界を設けなければならない。

 我が国でも下世話に、「出物、腫れ物、所構わず」というではないか。放屁やトイレに神がいるのは、時代や場所を超越して実生活での言い訳・潤滑油だったのだろう。

Filed under: ブログ

コメント 0 件


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Comment *
Name *
Email *
Website

CAPTCHA