最近の考古学情報:ポンペイ大規模私邸浴場発掘、超弩級パピルス文書再評価

January 18, 2025 Lavish private baths found in Pompeii villahttps://www.thehistoryblog.com/archives/72199

 IX.10のいわゆる「Aulus Rustius Verusの邸宅」は2年前から発掘され、私のブログでも昨年出土の既報で豪華な「黒の部屋」や製粉・バン工房を紹介していたが、今回ポンペイ最大級の私宅浴場が出土した。

左:Aulus Rustius Verusの邸宅         右:浴場複合体部分図

以前このブログで触れた青銅製の湯沸機はさすがに残っていないが、上図右側の浴場部分拡大図のあずき色の一番左側の部屋が奴隷の湯沸作業部屋 prefurniumだった。客は右で脱衣、温浴、サウナそして冷浴して衣服を整えて、左下の大宴会場「黒の部屋」で食事を愉しんだらしい。

左:「黒の部屋」         右:湯沸作業部屋
左:脱衣所             右:祈祷小部屋「青の部屋」のフレスコ画

「青の部屋」の右隣はこれも小さな仮設寝室だったようだが(部屋の中には、椅子、箱、大理石の天板のテーブル、青銅の燭台など、いくつかの品物が見つかった)、そこからは男女2名の遺骸が出土した(https://www.dailymail.co.uk/news/article-13737261/Pompeii-couple-clung-wealth-lethal-cloud-volcanic-ash-rained-newly-discovered-remains-man-woman-surrounded-gold-silver-bronze-coins.html

)。若い男性は肉体的にかなり酷使されていた由なのでおそらく奴隷で、年配の女性の傍からめずらしい真珠のイアリングやコインなどが出てきたので女主人matronaだったのかもしれない。噴火が収まるのを小部屋に避難して待っていたのだろう。

左:年配女性の遺骸(腰の部分にコイン)      右:コイン部分拡大

刑事事件を記したギリシア語パピルス公表:News Release 28-Jan-2025 (https://www.eurekalert.org/news-releases/1071704

 ユダヤ砂漠で発見されたギリシア語パピルスの中で最長のもので、133行を超えるテキストで構成されており、今回初めて公開された。当初はナバテア人のものと誤って分類されていたこのパピルスは、2014年にヘブライ大学の名誉教授ハンナ・コットン・パルティエルHannah Cotton Paltielによって再発見されるまで、何十年も注目されていなかった。彼女の発見を称え、パピルス学の慣例に従い、パピルスはP. Cottonと名付けられた。

 このパピルスは、バル・コクバの反乱(後132~136年)の際にユダヤ砂漠の洞窟に隠されたと思われ、ローマの属州ユダエアとアラビア(現在のイスラエルとヨルダンに相当)での偽造、脱税、および奴隷の不正な売買と解放を含む、興味深い事件を詳述している。主な被告であるガダリアスGadaliasとサウロスSaulosは、不正行為の罪で告発されている。公証人の息子でローマ市民だった可能性のあるガダリアスには、暴力、恐喝、偽造、反乱の扇動などの犯罪歴があった。彼の協力者サウロスは、必要なローマ税を支払わずに奴隷の架空の売買と解放を画策した。被告らは活動を隠すために文書を偽造したという容疑でだった。

 特に注目すべきは、文書がガダリアスとサウロスをハドリアヌス帝のこの地域訪問(西暦129~130年)中の反乱活動に関与したとしており、バル・コクバ反乱が始まったときのユダエア総督ティネイウス・ルフスTineius Rufusの名前を挙げていることである。以前の騒乱を受けて、ローマ当局は被告らを疑いの目で見ていたようで、彼らの犯罪を帝国に対するより広範な陰謀と結び付けていた。

 この文書を研究者は、ローマの役人の前で行われた裁判のための検察官のメモであり、司法審問自体の急遽作成された記録も含まれていると判断した。言葉遣いは生き生きとしていて率直で、検察官がさまざまな証拠の強さについて他の検察官に助言し、異議を予測する戦略を立てているからである。それによって、ローマの主要制度が帝国全体でも実施されていたことを立証している、と考えることができる。おそらく、裁判は反乱によって中断された可能性がある。そしてこの文書がなぜ保存されたのかも不明である。

 本パピルスについての詳細な検討は以下の論稿でなされている。Anna Dolganov, Fritz Mitthof, Hannah M. Cotton, Avner Ecker, Forgery and Fiscal Fraud in Iudaea and Arabia on the Eve of the Bar Kokhba Revolt: Memorandum and Minutes of a Trial before a Roman Official (P.Cotton). Tyche, Bd. 38 (2023), Pp.135: doi.org/10.25365/tyche-2023-38-5

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