投稿者: k.toyota

「クローズアップ現代」の30年、いや23年

 ここ数日、NHKが30年前の1993年に始めた「クローズアップ現代」のスペシャル版を放映してきた。 そして2023/12/22の今晩は、その最初から2015年まで23年にわたって出色の看板キャスターだった国谷(くにや)裕子さん(1957年〜)を現在の桑子アナウンサーがインタビューする形式で放映。相変わらずの国谷さんを久しぶりに拝見してうれしかったのと同時に、あれからもう30年ないし7年もたったのかという思いと、その間パレスティナ問題もアフガニスタン問題もウクライナ問題も問題として取り上げられていたこと、しかし未だ何一つとして解決されていない現状に唖然とせざるをえない自分に気づかざるをえないのだった。

 ホモ・サピエンスを自称する人間は、愚かにも容易に忘却する動物である。残念ながら健忘症は後期高齢者に限られないのだ。

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水とお茶の話

 最近あるところでの雑談でイギリスの水と紅茶の話をした。その情報をアップしようと思いついて、ついでにイタリアの水にも触れておくことにした。

 ことの端緒は以下の通りである。大昔ロンドンのホテルで部屋にリプトンの(たぶん黄色の)ティー・バックが置かれていたので、あれれ安物だなあと思いつつ、紅茶を入れた。そして飲んであまりの旨さに仰天したのだ。それで残りのティー・バックを日本に持ち帰った。そしたら期待に反してチョーまずかったのである。まあ、このあたりで原因は水だなとは気づいたのだが、そのころは単純にあっちの水は硬水のせいなんだろうと思っていたが、以下引用のウェブ情報で、イギリスは軟水域と硬水域があることを初めて知ったのである。だから、イギリスからみやげ物として購入する場合は注意しなければならない。

 「英国老舗紅茶商 【 RINGTONS 】 公式 リントンズジャパン」の「サイトマップ」で「紅茶とお水はとても大切な関係」に行ってご覧下さい。キモは以下の地図にある。イギリスには硬水域と軟水域があり、ロンドンは硬水域なのであ〜る。茶葉はおのずとそれ用に調整されているのだ。そして、後年スコットランドを自動車で遺跡巡りしたとき、拠点にした民宿での料理が、とかくの風評に違えてとてもおいしく感じたことも、あるいは軟水域だったせいかもしれない、と思い至ったことだ。

 以下、イタリアの水については以下参照。https://guideassociation.com/mailmagazine/post-4102/

 イタリアでもアルプス近くだと軟水的となる。ちなみにローマで緑茶を飲む場合は、水道水を沸騰させて上澄みをとり、2回目のそれで飲むとおいしいのだそうだ。石灰分が沈殿するからだが、そのことを知らなかった私はサバティカルで一年滞在したとき、日本から持ちこんだ緑茶や番茶をすべて捨ててしまった。ローマの水道水は紅茶にも合わない気がした。あろうことか表面に虹色の金属膜が浮かび、浮遊物が対流しているのが目視できるので見た目で全然おいしそうに思えないのだ。

ローマ市の水道水を沸騰させるとこんな具合なる。

 ちなみに、日本のシャワートイレが欧米に普及しないのは硬水なのですぐに管が石灰分で詰まるからだいう言説がある。本当だろうか。

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ローマ、Tuscus通りの邸宅発見

 イタリア在住のFさんから最近の発掘報告が入ってきたので、本人了解のもと、内容を一部付加修正して転写いたします。

                       ↑vicus Tuscus

本日は、パラティーノ丘での共和政末期のドムス発見のニュースが 12日にイタリアを騒がせ、続く13日~15日に開催された「Convegno internazionale di studi | Ninfei antichi e moderni a Roma e nel Lazio – Curia Iulia, 13-15 Dicembre 2023」の2日目(14日)に、さらなるその詳細が Parco archeologico del ColosseoのRoberta Alteri女史によって発表された ことのご報告です。

 13日にローマ・ガラスの大家ルチア・サグイ先生から、この会議について連絡をいただきました( https://roma.corriere.it/notizie/cronaca/23_dicembre_12/archeologia-ricca-domus-romana-scoperta-tra-il-foro-e-il-palatino-sangiuliano-nuovo-tesoro-della-romanita-9dfe2da9-27bf-4b24-81ae-68cda3356xlk.shtml)。皆様にすぐにご連絡をと存じましたが、この会議はYoutubeでストリーミング配信され、Roberta Alteri女史の発表を含む3日間の発表と質疑応答が録画されることがわかりましたので事後報告とさせていただきました。

 なお、Alteri女史の発表につきましては下記のURLの18~49分あたり、その質疑応答は3時間30分以降にあたります(https://www.youtube.com/live/k_iCHG4MD3Y?si=VQBT4LTjR4hf0byx)。 12月14日 9:50-10:10 Roberta Alteri (Parco archeologico del Colosseo) La scoperta della domus tardo repubblicana del vicus Tuscus. Architettura e decorazione a mosaico di un nuovo specus aestivus

概要:ティベリス川沿いの港とフォルム・ロマヌムを結ぶ商業道路Vicus Tuscusに並ぶアグリッパが建造した倉庫群Horrea Agrippianaの背後にあたるフォルムの斜面で、前2世紀後半から前1世紀末にかけて少なくとも3段階に分けて建てられた数階建てのドムスが今年9月に発見された(この区域自体は 2018年から発掘調査が開始)。

 吹き抜けの庭を取り囲むように配置されたドムスは、まだ発掘調査中だが、とりわけ前2世紀の最後の数十年間に建造された 、洞窟を模した夏の宴席用pecus aestivusの部屋がセンセーショナルな発見となっている。すなわち、この部屋の東壁、高さ約5m、幅約5.60mの全面が、 «rustico»(田舎風)と呼ばれるモザイク(貝殻、エジプシャン・ブルーの テッセラ、ガラス、白大理石や様々な石の破片を使用)で覆われ、さらにその壁面から水が流れ落ちたり、吹き出したりしていた可能性が、何本もの水道管が埋め込まれていた痕跡から報告された。田舎風モザイクの装飾主題は、半月状のルネッタにみる景観図と、その下の建築的装飾からなる。景観図では、帆を張った大きな船や小型船2艘が航行し、魚が泳ぐ海を見下ろす城壁に囲まれた都市が、列柱、門、塔(内1つは灯台か)、大きな公共建築物など共に描かれている。また、都市の背後にはトラバーチン(tartari di travertino)で模造された崖(?)が、向かって左端には牧歌的な風景が描かれ、家畜の中に立つ唯一の人物像もみられる(海岸沿いの都市の表現は、ドムスの所有者、元老院議員階級の貴族による戦争的征服を暗示か)。

 開催者の一人であるAlfonsina Russaが「パラティーノ丘は発掘しつくされてもう何も出てこないといわれていましたが、このような素晴らしい、しかも共和政末期のドムスが発見されるんです」とおっしゃっていましたが、本当に今回の発見には全身の血が湧きました。ポンペイをはじめ、水にかかわる壁面に田舎風モザイクが施され、その中にガラスの破片やテッセラが光るのは目にしてきましたが、「モザイク・ガラス」または「大理石を模したガラス製」の円盤(半球?)が模様の一つとして貼られていた事例ははじめて目にしました。 また、カタコンベの壁面に円盤型のVetri doratiやガラスを貼る発想は、共和政末期のこのようなモザイクに遡るのかもしれないと、ぼんやり思いました。 さらに、サグイ先生のコメント(壁面装飾にあわせた形状加工されたガラスのモザイクは近くに工房がないとできない。この事は、一般にストラボンの記述に基づきアウグストゥス帝時代からガラス製造が始まったと言われる都ローマ で、1世紀近くも前にガラス製造が始まっていたことを示す)など、ローマ・ ガラス研究者の端くれとして、まだ高揚した気分がおさまりません。

 この他にもこの会議の詳細につきましては、下記URLをご参照ください。プログラムも掲載されています(Convegno internazionale di studi | Ninfei antichi e moderni a Roma e nel Lazio – Curia Iulia, 13-15 Dicembre 2023 – Parco archeologico del Colosseo)。

 ところで、このNinfei会議を追うことで、10月にH先生やO先生と拝見したエルコラーノの北西小浴場(エルコラーノの調査申請では「パピルス荘の浴場 」と指定しないと、「郊外浴場」と紛らわしいそうですが)の天井部が、洞窟を模した偽鍾乳石装飾が施されていたことから、本当に「浴場」だったのか、むしろ「Ninfeo」の一種ではなかったのか、などと疑問が湧いてきました。もっともNinfeoについてよくご存知のエルコラーノの方々が浴場と解釈されたのですからその通りだと思いますが、いずれにしましてもNinfeoや模倣洞窟への嗜好を知る上でもこの会議の内容は重要だと思いますので、また、アーチ構造を専門とされるO先生には興味深い発表も多いのではと僭越ながら思いましたので、是非お時間のある時にみていただき、ご教授いただけたらと存じます 。   なお、この国際会議は昨年から12月に行うようになったそうで、来年も「ローマ時代の商業・生産空間spazi produttivi e commerciali di epoca romana」をテーマに発表を募るそうです。

【補遺】以下も参照:http://www.thehistoryblog.com/archives/date/2023/12/14

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痘痕つながりで:スターリン

 今でもよく読まれている私の初期のブログに「漱石とあばた(痘痕)」(2020/8/15)がある。

 今回、偶然あのスターリンがご同様に5歳の時天然痘にかかりひどいあばただっただけでなく、なんと身長が163cmくらいしかなかったことを初めて知った。がっしりとした体躯とスッキリした顔面は作られたイメージだったのだ。「スターリンの顔は醜い痘痕顔であり、片手(左手)に麻痺がある風采のあがらない小男」だった。憲兵の報告書では彼は「あばた」があだ名だった。

左と真ん中は1911年の秘密警察のファイル;右は1932年のあばたが残る写真

https://jp.rbth.com/history/84737-stalin-byou

 身長に関しては以下参照(https://celeby-media.net/I0003525)。

 ところで、スターリンという名は実名ではなく「鋼鉄の人」といういわばペンネームで、「イオセブ・ベサリオニス・ゼ・ジュガシヴィリ」というグルジア(現在のジョージア)人だった。

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マスコミ的あおりと法的現実

 特捜から報道への意図的リークが今回目に余る印象が強い、自民党のとりわけ安倍派のパーティー券キックバックであるが、昨日(2023/12/18)のBSフジの「プライムニュース」に出演した元特捜検事の高井康行の明確で冷静な発言とキャスターの反町理の落差が面白かった(https://www.youtube.com/watch?v=rnM-IdRPyIo;https://www.youtube.com/watch?v=sMvpopv8oPQ)。法的観点からすると今回の例は単なる不記載にすぎず、議員と秘書の共犯は成り立たず無罪になる可能性が強い、ということらしい。

 だから、今回の場合、起訴に持ち込める可能性がかなり低いので、社会的制裁を期待しての意図的特捜リークという流れになる、というのが私のような屈折者の読みになる。

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博物館・美術館の今後を占う

 先般の国立科学博物館のクラウド・ファウンディングは予定額1億円のところなんと9億2千万円集め素晴らしい大成功だったが、どの施設でもそういうわけにはいかないだろう。

 私は上京して以来首都圏で海外の特別展を含めて参加することが容易になったのは確かだが、いつもとんでもない人出の混雑に辟易、冥土の土産にしたいのだろうけど、今さら見てもどうなるのよ、とつい毒づきたくなったものである(すみません)。とかくするうちに、私自身が冥土目前になっているわけであるが。

 ところで、こういった箱物施設では収蔵物は年を経ることで増加していく。しかし展示スペースは限られているので、要するに普通収蔵品の閲覧はごく一部に限られる。ところが、それをデジタル化してHPに展示する労力を払えば、極端にいうと、すべての収蔵品を見ることができるし、観客に邪魔されることもなく、展示期間に限られることもなく、微細画像を自宅や研究室でじっくり監察することもできる(ミュージアムの「トリアージ」と「終活」 避けるために必要なこと)。

 今後の施設はこういった視野をもって経営されるといいと思う。ウェブではサムネイル画像で見て、必要な画像は有料で入手出来るようにすれば、施設も多少なりとも経済的に潤うことになるだろう。問題はデジタル化の経費捻出と、そのプロセスにかなりの日数を要することだろうが、これはやるしかないとしても、スキャナ技術の日進月歩とどこで妥協するかといった問題も壁となるだろうから、そう生やさしい作業ではないかもしれないが。

 

 

 

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「ニュー・ポープ:悩める新教皇」再放送を見ている

 今日(2023/12/16-17)のスターチャンネルで全9話の再放送をやっているのを偶然知った(2019年製作)。これはシリーズ1「ヤング・ポープ:美しき異端児」全10話(2016年)の続編で、いずれも面白いドラマだった。未見の方にはお勧めする(https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0912ZRGMP?&linkCode=ll2&tag=exstar2022-22&linkId=1ea02caa04cba7ae663bd447addbec0c&language=ja_JP&benefitId=starch&ref=dvm_ptm_off_jp_ac_c_starch&_ebx=6uez1ce1s.1611773608.7tl5iop)。

 続編第1回の、教皇選出が難航しているとき、枢機卿たちの独り言が数人分でてくるが、それらが多様な見解や期待を持った枢機卿集団の事実をあぶり出しているようでたいへん秀逸で、その後の展開もコミカルかつシニカルに展開していき、視聴者を飽きさせないのである。しかも人間の哀しみ、人間の業(ごう)への洞察も随所で描かれていて深い:「私は神にうとまれているのだ」。これは脚本・監督のパオロ・ソレンティーノの力量である。

 再放送を見逃しても色んな手段で鑑賞することができる。いうまでもなくフィクションであるが、如何にもありそうな感じの設定で必見のドラマ。

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新シリーズ「日本人とは何者なのか」を見た

 2023/12/6からNHK新BS夜21時に放送開始。それを見て驚いた。古代人のDNAを解析することによって、従来説がものの見事にひっくり返されてゆくのである。面白かった。

 現生人類の「出アフリカ」によって、氷河時代に日本列島が大陸と陸続きになって、最初に日本に渡来した原日本人が縄文時代を、その後、大陸から金属器と稲作を持ってきた弥生人が弥生時代を構成し、これが現代日本人の先祖であった、というような簡単な図式が提示されてきたが、ここ数年の研究で、なんと原日本人のDNAになったのは実は古墳時代のことだった、すなわち、中国での動乱の余波のせいか古墳時代に大量の移民が日本列島に移住してきた(限られた帰化人レベルではない大量の庶民レベルを含む)としか考えられない現象がDNA的に立証された、と。

 来年の12/3までオンデマンドで見ることできる。以下参照。 https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2021/10/story/2021-10-story-story_211005/

 こう考えることで、これまで孤立的だった日本人の起源が地球レベルの中で再検討される契機となりえるわけだ。

 テレビの刑事物の冤罪を見ていると、昔のDNA鑑定の未熟さがよく登場するが、そういったレベルをすでに脱していることを祈らざるをえない。データ数が増えればまた別仮説が登場するのは必定であるが。それが研究だ。https://digital.asahi.com/articles/ASR9V4GJNR9QULZU00Q.html?pn=5&unlock=1#continuehere

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組織崩壊への序曲

 最近崩壊を始めている組織がどうしても目につく。

 一番新しい動きは安倍派である。集団指導体制など問題の先送りに過ぎず(利権の温存が当面の課題)、その間に問題は何も解決されてこなかったツケが回って来たわけだが、それは思わぬことからほころび出す。統一教会がらみで派閥内で排除された下村博文の、逆襲の一刺しという見方をすると面白いのだが、どうだろう(https://news.yahoo.co.jp/articles/2482d990e466dbb001639cf2aeb4c64d105eb1a1)。それに表には出ていないが、この問題に火をつけたのは昨年11月の赤旗らしい(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20231210/pol/00m/010/005000c)。劣化の激しいマスメディアの体たらくがここでも目立つ。

 巨悪が渦巻く中で今回は、氷山の一角としてもしかし額の小ささはいささか気になるところで(ま、安倍の小判鮫どもだから小者には違いないが)、それもあってか特捜はマスコミへのリークで世論を盛り上げようと躍起になっている気配がするが、さてどこまで行きつくことやら。ここでもマスメディアの自主取材能力の劣化を嘆じざるをえない。否、知ってて公表しなかったのかもだが。まあいずれにせよ不甲斐ないわけであるが。

 以下、今回の小ずるそうな小者たちのうち3名の揃い踏み。

 次に集団指導体制問題ではやはり創価学会が俎上に上がらざるをえないだろう。部外者の私には情報が不足しているが、否応なく信者の世代交代がせまっていること、公明党の集票力の低下といった周辺的状況からすでに長期低落は始まっている。ここでも集団指導体制という権力の空洞化がとられてきたわけであるが、中興の人物が出ない中で有効な手当を講じえないままに、池田大作の死亡発表となったとなると、もう先がないわけで。卑近な例では、もといた岡山県の山奥から私の教え子が選挙のたびに上京して私を訪ねてきていた。もちろん公明党候補に投票を、というわけだ。たかが一票にすぎないがおそらく私は投票しないだろうと思いつつのことで、上京しての選挙の手伝いついでのことだったのかもだが、それにしてもせっせと尋ねてきていた。しかし来なくなって久しい。

 ところで、なぜか佐藤優が大甘の見解を述べているのが目につくが(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20231127/pol/00m/010/013000c)、カリスマの後には凡庸な存在しか許されないので、どんな手立てを講じていても空文にすぎないということが今回は分かっていないようだ。というか、売らんかなと大部の本を書いたせいでもあるまいに(『池田大作研究』朝日新聞出版、2020年)。

 ジャニーズ事務所も宝塚も、日大アメフト部も・・・。だが、浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ、なのだよね。替わりはまたすぐに出てくる。モグラ叩きは終わらない。

【追記】いつもは見るのを避けているテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」をなぜかチャンネル押して見てしまったのが、豊田真由子の話だった(https://news.yahoo.co.jp/articles/04bd7bcf156454b975aab3fe635cf2ea4b771a75)。門外漢には知りえないなかなかリアルな内容だったが、そのあとコメンテータの玉川某が無内容な発言をしていて、何も知らないのに一丁前に喋っているのは実に滑稽だった。

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チンチンナブルムとはこれいかに?!

 かつての上モエシアの州都にして要塞都市ヴィミナキウムViminaciumは、現在のセルビアに属するが、その首都ベオグラードから直線で63km東の、同様にドナウ川に面して位置して対ゴート族と対峙した文字通り帝国国境の町である。そこでバルカン半島最大の円形闘技場と帝国最大級の墓地が19世紀後半に再発見され定期的に調査が継続されてきたが、2023/11の初頭に、今般調査が始まったばかりのローマ時代の民間居住地の遺跡から古代ローマ風の風鈴が発掘された。これがちょっと曲者で・・・(^^ゞ。

 それは青銅製のティンティンナブルムTintinnabulumとして知られているもので、ご当地では2番目の発見だそうだ(一体目は詳細不明、すなわちオーストリアの個人コレクションの由)。中央に翼のある男根(それに追加の突き出た男根があったりする)と鎖に吊るされた 4 つの風鈴のデザインが施されていて、ご同類はナポリ国立考古学博物館のかつての「秘技の部屋」で、年齢制限と時間制を設定して(例のごとくそれらは有名無実で、実際にはチェックなしで開けっぱなし)、今では自由に多数を見ることができる。そうなる以前の30年前に、私は強く希望して特別許可をえて倉庫然とした雑然とした環境の中で見学したこともあるが(村川堅太郎が嬉しそうに書いていたので是非とも見たかったのだ)、いい時代になったものだ。

 それは当時邪視を避け、魔除けのお守りとして戸口や軒下にぶらさげられた男根形が基本で、その形状は、悪や不運を回避する神格fascinus 神、ないし fascinus神をあらわし、ぶら下がっている風鈴は、その音が悪霊を怖がらせると信じられていた、からだそうだ。ま、いかにも即物的な地中海世界なのである。

 かつて古代ギリシア・ローマにおいては街の至る所に男根が見られ、男根=男性優位文化の一端を端的に示しているものとされるが(エヴァ・C.クールズ (中務哲郎他訳)『ファロスの王国:古代ギリシアの性の政治学』岩波書店、1989年:ところでこの”奇書”がこともあろうに岩波から出版されたのは、私には驚嘆ものだったのだが、それが初版で絶版になっているのは解せない、というか覚悟が足りない。強く再版を願っている)、そんなに大仰に言いつのらなくてもいいような気がしないでもない。まあ辻つじの道祖神みたいなものだったのでは。

 ところで、なんと時代は下って、カトリック教会でミサ聖祭中に使用する鈴もtintinnabulumと称する由で、これも魔除けの延長に位置づけられているようだが、さてどうだろう(これも古代ローマ的伝統を内在していて一向に平気なローマ・カトリック教会の体質の一端を示しているようで興味深い、といっておこう)。馬や羊の首につけられた鈴も魔除け目的を兼ねていたとされているのは納得できるが(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%A0)。

 これも30年ほど前に、F 修道会の日本人の神父さんから聞いた話だが、イタリアでは乾杯のときに「チンチン」という(場合もある)のだが、彼が「日本ではチンチンは●●のこと」と修道会の食事のときに言ったら大受けだったと。おいしいワインと料理が出ないと修道士たちから不満が出るという、いかにもF会らしい話であった。

 私事であるが、私はかつて横浜で開催されたポンペイ関係の展覧会のグッズ売り場で首からぶら下げる魔除けのそれを教材用に購入したし(さすがにこの類いが売られていたのはこの時だけだったと記憶する)、漫画「テルマエ・ロマエ」の有料付録で手に入れたことさえある(いずれも以下写真のようなもの)。しかし、実際には一般学生対象の授業で見せるには至らず、よほど気心が知れたゼミ生に開陳したことがあるくらいだ(私の収集品にはこういう危ないものも色々含まれていた:いびつな性的瞥見の今日日の大学教室で見せていたらセクハラと訴えられかねないかも。無事に停年を迎えられたのがウソみたいだ)。不自由な時代になったものだ。

 私が最近の展覧会のグッズ売り場に不満なのは、えてして古代ローマ時代と無関係なもの(食材とか抱き枕とか)を販売していることで、せめて装飾品売り場にまあこういった教材になるようなものも置いてほしいと思っているのである。実際に購入する人は少ないだろうけど。

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